東京オリンピック、スポーツクライミング・ボルダリング競技の観戦ポイント解説! 注目の強豪選手は?

東京オリンピックのクライミング競技は、リード、ボルダリング、スピードの3種目がセットで行われます。先に公開したリード種目の解説記事「オリンピックの新競技、スポーツクライミング・リード種目の観戦ポイントや注目選手を徹底解説!」に続いて、今回はボルダリング種目の観戦ポイント解説をします。

そもそも、ボルダリングとは?

「ボルダリング」は元来、自然界にある大きな岩(ボルダー)を登る遊びです。

競技としてのボルダリングは、高さ5メートル程度までの壁を、壁に設置された突起物(これを「ホールド」と呼びます)を使って登っていき、上部にある「ゴール」のホールドをつかんだら「完登」となるというルールです。

壁は低いのでリード競技のように安全確保のためのロープは付けません。その代わり、床に厚いマットを敷いて、万一背中などから落ちても怪我をしないようになっています。

ボルダリング競技の得点と順位

ホールドを組み合わせて作られた壁のコースを「課題」と呼びます。ボルダリング競技では、複数の課題が与えられて、「一定時間内にどれだけ多くの課題を完登できたか」で勝敗が決まります。

リード種目は一度落ちたらそこで競技終了ですが、ボルダリングの場合、同じ課題に何度でもトライできます。しかし、ゴールなど、同じところまで登った選手同士なら、トライ数が少ない方が点数が高いというルールになっています。

順位の付き方について正確に説明すると、「完登数>ゾーン数>完登までのトライ数>ゾーンまでのトライ数」の順で重視され、順位が決まります。“ゾーン”というのは課題の中間部に設置されたホールドのことで、「高さ」といってもだいたい同じです。

つまり、
・完登した選手と、完登できずに途中のゾーンまでしか登れなかった選手を比べると、完登した選手のほうが高得点
・完登した選手同士、あるいは同じゾーンまで登った選手同士を比べると、トライ数の少ない先週のほうが高得点
ということになります。

このような方法で、複数の課題のそれぞれについて得点をつけていき、総合的にもっとも得点が高い選手に順位が付けられます。

ひらめきや対応力が重視される予選・準決勝

ボルダリング競技は予選・準決勝と決勝のラウンドで競技方式が少し異なっています。まず、予選・準決勝の競技方式である、「ベルトコンベア方式」について解説します。
こちらはその名の通り、用意された4~5つの課題に、順々にトライしていくする方式です。各課題の制限時間は5分です。

競技順に並んだ選手A、B、Cを例に挙げてまいりましょう。最初の5分間、Aは第1課題にトライ。時間切れになると完登の可否は問わずに、競技は一旦終了します。次の5分間は休憩、Bが第1課題にトライします。さらに続く5分間ではAは第2課題、Cが第1課題にトライ、Bは休憩です。順番や制限時間は一定で、時間内に完登すれば一足早く休憩に入ることができます。

ここで大切なのが選手はトライする瞬間まで課題を見られないということ。ここが決勝との大きな違いです。また、休憩後には次の課題にトライしなければならないので気持ちの切り替えも重要になります。ある課題がうまく登れなかった選手がその気持ちを引きずって、その後の課題も登れなくなるということもあるのです。

緊張感のはしる決勝

決勝はワールドカップ方式という方式で行われます。おおむね形式は変わらないものの、「事前に課題を見られること」が大きな違いです。
決勝では競技の開始前に“オブザベーション”と呼ばれる、合同で課題を観察する時間が設けられています。そこで各課題にトライする全選手たちが、アイデアを出しながら登り方の攻略方法を読み解くのです。ボルダリングにはパズル的な要素もあるので、このオブザベーションの時間は非常に重要です。
オブザベーションタイムのあとは、1人ずつ、実際にトライを開始します。
課題が直前まで見られない予選・準決勝と違い、他選手のアイデアも参考にできる決勝。その一方で完登率は高く他選手の登りもイメージしやすいので、より選手の間で緊迫感が高まるシビアな戦いになっていきます。

ボルダリング競技観戦のポイント

ボルダリング種目は「登り方」が非常に重要です。リード種目のように長い距離の課題を登るわけではないので、持久力やレスト(休憩)という要素はあまり重要ではありません。その代わり、どのホールドをどのように使うのかというテクニックや、ホールドを掴んでいく順番(手順)が非常に重要になります。よく勘違いされるのが、ホールドを強く掴むことができる「パワー」のある選手が勝つのではないという点ですが、そうではありません(もちろん、一定程度のパワーは必要ですが)。

手順が重要という点では、パズル的な要素もあるのです。(だからこそ、決勝ラウンドで、事前に選手同士がオブザベーションできることが重要な意味を持ちます)。

ある選手が、ある手順で登れなかった課題が、他の選手は他の手順で登ってしまうこともよくあります。そういう手順の違いに注目すると面白く観戦できるでしょう。

また、ボルダリングはダイナミックな動きが多く、選手は観る者を魅了するパフォーマンスを披露してくれます。

ジャンプ技の2種類

だれでも目を引く派手なジャンプ技に2種類あり、どちらも大会中に頻出します。

1つは「ダイノ(ランジ)」、身体を縮めてから、カエルのように大きくジャンプして、次のホールドに飛びつくワザです。もう1つは「コーディネーション」。これは、壁の中を走る忍者のような動きのことで、近年は、コーディネーションが必要な課題が中心になっています。

選手がこれらの2つのジャンプ技をどう使うのかは注目ポイントです。

タイムマネジメント

ボルダリングでは、各課題に5分などの制限時間が設けられています。選手がこの時間をどう使うのかも、観戦のポイント。たとえば、何度もトライを繰り返すと、疲労も蓄積し、また完登できたとしても相対的に得点が低くなります。そこで、あえてトライの間隔を長めにして、疲労を回復させて、少ないトライ数での完登を狙うという作戦もあります。

残り時間少なくなっていく中、どのような作戦で挑むのか、選手の心理を想像しながら見ると、より楽しめるでしょう。

主な強豪選手

東京オリンピックのボルダリング種目で優勝争いに名が上りそうな、世界の強豪選手をご紹介します。

年間女王がそろい踏みの女子選手たち

野中生萌
1997年生まれ、日本出身。高校生の頃よりワールドカップに出場し、2018年に年間女王の座を勝ち取りました。瞬発力や反射神経に優れ、シンプルなダイノやコーディネーションはお手のモノ。一瞬のうちに空中で身体を操る動きは、まさに彼女のお家芸でしょう。

ショウナ・コクシー
1993年生まれ、イギリス出身。2016,7年のワールドカップの年間女王に輝き、決勝の常連です。過酷な筋力トレーニングから生まれるパワフルな登りには、他を寄せ付けない圧倒的な力があります。2019年12月の膝の手術から、完全復活に期待がかかります。

ヤンヤ・ガンブレッド
1999年生まれ、スロベニア出身。2019年のワールドカップでは前人未到の全戦優勝を飾り、見事年間女王となりました。経歴からわかるように実力は折り紙付きですが、厳しい局面でも確実に結果を残す精神力で、いまや若き絶対女王です。

個性あふれるクライミングで頂点を目指す男子選手たち

アダム・オンドラ
1993年生まれ、チェコ出身。リード種目の記事でも紹介しましたが、ボルダリングも強いのがこの選手のすごいところ。「宇宙人」というニックネームは伊達ではありません。自然の岩場でのボルダリングでも輝かしい功績を残していますが競技でも引けを取りません。2014年の世界選手権では自身初出場となったボルダリング競技で優勝、力の差を見せつけました。

楢崎智亜
1996年生まれ、日本出身。2016年、日本人初の世界選手権優勝を決め、その年のワールドカップ年間王者にもなりました。身長は169㎝と男性の中では小柄ですが、バネのある軽快な登りで重力を感じさせません。トモアスキップに代表される柔軟でトリッキーな動きは随一。

チョン・ジョンウォン
1996年生まれ、韓国出身。世界選手権優勝の経験はありませんが、2015,7年の2度ワールドカップ年間優勝を果たしています。とくにボルダリング競技に定評があり、細身かつ鍛え抜かれた身体をコントロールするクライミングが特徴です。

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