【全解説】スポーツクライミング競技(2)リード種目:東京オリンピック

2020年東京オリンピックの正式競技として採用されたスポーツクライミング3種目のうち「リード」について解説します。リード種目は、高さ12mの高い壁で行われ、登った高さを競う競技です。安全確保のためにロープが使われますが、登るために使われるのは壁に付けられたホールド(突起物)だけです。

高さ12メートル以上の壁を登るリード競技

スポーツクライミング3種目のうち、「リード」種目について解説します。

リードは、高さ12メートル以上の前傾した壁を登る競技です。高く長い壁なので、使うホールドは最大60個(60手)程度にもなります。

高所を登るので、安全のために、クライマーはハーネス(安全ベルト)を装着し、ハーネスにはロープが結びつけられます。

そして、クライマーは壁の途中途中に設置されている確保支点に、ロープをひっかけながら登ります。確保支点のロープをかける器具をクイックドロー(またはカラビナ)、かける行為のことを「クリップ」といいます。

クライマーが最上部まで登って、最後のホールド(ゴールホールド)をつかみ、最終の確保支点にロープをクリップしたら「完登」となります。

ロープは安全確保のためのもの

クライマーのハーネスに結ばれたロープの端は、壁の下の地面で別の人が持っており、万一クライマーが落ちた場合は、その人がロープを押さえて、クライマーが落ちないよう支えます。この安全確保のことを「ビレイ」、安全確保をする役割の人を「ビレイヤー」と呼びます。

よく誤解されるところですが、リード競技において、ロープはあくまで落ちた時、または最上部まで登り切った後に降りてくる時の安全確保のために使うものです。ロープをつかんで登るわけではありませんし、そのように登ったら失格となります。

「オンサイト」はクライマーがもっとも好きな言葉

大会では、壁の形状、スタートからゴールまでのホールドの種類や配置などは、毎回異なるものがセットされます。このセットのことを、「ルート」とか「課題」と呼びます。

ところで、以前クライミングをテーマにした『オンサイト』(尾瀬あきら作)という漫画作品がありました。その作品中で、登場人物が「『オンサイト』はクライマーが一番好きな言葉よ」と話す場面がありました。まったくその通りで、オンサイトこそ、クライミングの醍醐味です。

「オンサイト」(On sight)とは、「見てすぐに、初見で」という意味。つまり、初めて見るクライミングのルートを登り、1回で完登することを「オンサイト」と言います。また、そのような形で登ることを「オンサイト方式」といいます。

クライミングには、決められたホールド配置をどうやって使い、攻略するのかという“頭脳戦”の要素もあります。人が登るのを見てしまったら、それだけで多くのヒントが得られて簡単になってしまうのです。

逆にいえば、初めて登るルートを、ヒントなしで、自分で考えた動きだけで登りきることは、難しいがゆえに成功すれば大きな喜びを得られます。

さらに、もし失敗してやり直したら、次に完登できてもオンサイトではありません。つまり1人のクライマーが1つのルートをオンサイトするチャンスは一生で1回しかない、ということです。だからこそ、オンサイトは貴重であり、クライマーはっそこに大きな価値を見出し、非常に重要視しているのです。

予選はフラッシュ形式、決勝はオンサイト形式が普通

ちなみに、人が登っているのを見てから自分が登って、1回で完登できたとしても、それは「オンサイト」とは言いません。その場合は「フラッシュ」と言います。オンサイトとフラッシュとは、厳密に区別されます。

リードの大会では、準決勝、決勝は、オンサイト方式で行われるのが普通です。
選手たちは、まず全員で6分間のルートを確認する時間が与えられます。このルート確認の時間を「オブザベーション」と言います。オブザベーションが終わったら、選手たちは控室に隔離されて、他の選手が登るところが見れないようにされます。

なお、予選はフラッシュ方式(模範クライミングを見る)で行われるのが普通です。

リードの勝敗は、登った高さで決まる

リードの勝敗の決め方は、「どこまで高く登れたか」。1つでも先のホールドをつかんだ人が勝つという、シンプルなルールです。

同じ高さまで登った選手同士の場合には、前回の順位が高い選手を優先する仕組みが適用されます。そして、それでも同順位の場合は、登った時間が短い選手が勝ちとなります。

クライマーの総合力が問われるリード

個人的には、スポーツクライミング3種目の中で、一番面白いのがリードだと思います。

まず、高く長い課題は、最初から最後まで同じような難しさではなく、比較的簡単なパートと「核心」と呼ばれる難しいパートとで構成されています。そのルート構成をオブザベーションの段階で見抜き、いかに効率よく力をセーブしながら登っていくかの戦略性が問われます。

次に、実際に登ってみた時、オブザベーションでの予想と違ったらうまく修正して現場処理するテクニック、核心部(難しいパート)でムーブ(クライミングの動き)をこなすパワーも必要です。

さらには、(ロープで安全が確保されているとはいえ)10メートル以上の中空で、1手でも先に進むため、落ちることを恐れずに、体力の限界の中で動いていく精神力も求められます。
このように、クライミングの総合力が問われるのがリード競技なのです。

リードを実際にやったことのない方には、なかなか実感できないかもしれませんが、上記のような点を意識しながら観戦すると、新たな発見があるかもしれませんよ。

百聞は一見にしかず

百聞は一見にしかずです。2016年のワールドカップ大会のリード競技、実際の様子をご覧ください。

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