【全解説】スポーツクライミング競技(4)スピード種目:東京オリンピック
2020東京オリンピックで採用された「スポーツクライミング」の3種目のうち、この記事では「スピード」種目について解説します。
なお、他の種目については、以下をご覧ください。
【完全解説】スポーツクライミング3種目(1)リード:2020東京オリンピック
【完全解説】スポーツクライミング3種目(2)ボルダリング:2020東京オリンピック
スピードクライミングってどんなもの?ルールは?
スピードクライミングは、その名の通り、「登る速さ」を競う競技です。
スピードクライミング用の壁には、公式の規格が定められており、取り付けられるホールドの形状や配置は世界共通となっています。
予選タイムによって16名の選手が決勝に通過します。決勝はトーナメント方式で行われ、2人の選手が並んで同時にスタートして競います。スタートする地面とゴールにはスイッチが取り付けられ、タイムが計測されます。もちろん、速く登った方が勝ちです。
使われる壁の高さは15mの高さがありますが、リード競技と違ってクライマーは自分でロープをひっかけながら登るのではなく、あらかじめ最上部の支点にセットされたロープを、ハーネスに結んでいます。
これは「トップロープ」と呼ばれる方法で、常に上部から確保されており、万一滑落してもロープにぶら下がるだけなので、安全性が高いものです。
スピードクライミングの特徴
ホールドの配置が決められた「公式ルート」がある。
リード競技でも、ボルダリングでも、大会の壁(課題)は、毎回異なるものが使われます。そのため、選手たちが、はじめて見る課題をいかに攻略するかという、ルートの「読み」や、実際に課題に触れたときにどう処理するかというテクニックが、競技の大きなポイントになっています。
ところが、スピードクライミングにおいては、ホールドの配置が決められた「公式ルート」があり、選手はその同じルートで練習を重ねます。つまり、選手に求められるのは、ほぼ純粋に身体的な能力のみです。
条件が同じコースで、身体的能力のみを発揮してタイムを競うという点では、陸上競技の100m走などに近いですね。
「記録」が競えるのは、スピード競技だけ
また、ボルダリングやリードクライミングの場合、その大会(課題)ごとに勝敗は決まりますが、「タイム」のような客観的な記録を残すことはできません。大会ごとに新しい課題を登るため、異なる大会同士を比べることができないのです。
一方、スピードクライミングは、公式設定の同じ壁で登る限り、タイムという客観的な記録が残せます。
異なる大会の結果を比べて、「世界記録更新」などと言えるのは、スピードクライミングだけなのです。
スピードクライミングの見どころ
スピード競技の魅力は、「タイムを競う」という単純明快なわかりやすさでしょう。
リードやボルダリングで選手が駆使する「読み」やテクニックは、実際にその競技をやったことのない人には、なかなか理解できません。もちろん、ランジなどのダイナミックなムーブ(クライミングの動き)は、はじめて見る人でも、「おおっ!」と思わせるすごさがありますが、それはクライミングのテクニックのごく一部にすぎません。
一方、スピードクライミングが競う「速さ」は、だれが見ても一目瞭然。そして、速さがすべてです。高さ15mの垂壁を6~10秒程度の速さで登る驚異的な身体能力は、まさにアスリートそのもの。
百聞は一見にしかず
さて、百聞は一見にしかずです。2016年ワールドカップ大会、スピード競技のハイライト動画をご覧ください。
スピード競技ができる施設は、国内に1カ所だけ(2016年12月現在)
スピードクライミングの動画を見て「自分もやってみたい」と思う方もいるでしょう。しかし、スポーツクライミングはクライミングの中でも特にマイナーなので、これまで日本国内には、国際基準に準拠したスピードクライミング専用壁が一か所もありませんでした。
ところが先日、オリンピック競技への採用が決定した後の2016年10月に、日本初のスピード競技専用施設が完成しました。旭金属工業株式会社が岐阜県安八市の同社工場施設内に設置している「安八スカイウォール」です。
基本は同社社員の福利厚生施設ですが、それ以外の一般のクライマーにも広く開放されています。くわしい利用規程などは、上の公式ホームページで確認してください。
企業が行うスポーツによる社会貢献の取り組みとして、クライミングはめずらしく、近隣のクライマーには嬉しい施設ですね。多くの企業、とりわけアウトドアメーカーやクライミング雑誌を出版している会社などは、こういった取り組みをぜひ見習ってほしいものです。
なお、この施設にあるスピード競技用の壁は「1レーン」であり、大会のように選手が2人並んでの競争はできません。
スピードクライミング普及のカギは、それができる施設の増加でしょう。施設が増えなければ、ボルダリングのような「やるスポーツ」にはならず、「観るスポーツ」だけで終わってしまうかもしれません。それでは選手層も厚くなりません。
今後の施設普及に期待しましょう。