はじめてのクライミングシューズは、「値段優先」で選ぶのがよい理由

クライミング、ボルダリングの初心者がはじめて買うクライミングシューズ選び。それにはいくつかのポイントがありますが、第1のポイントは、値段優先、すなわち「安いもの」のなかから選ぶことです。

そろそろマイシューズが欲しい、と思ったら

クライミング・ボルダリングをはじめた当初は、ジムのレンタルシューズでクライミングをする人がほとんどだと思います。以前の記事にも書いたように、少なくとも10回くらいは、レンタルシューズで登るのがよいでしょう。もちろん、もっと長いあいだレンタルシューズでもかまいません。

しかし、10回以上もジムに行き、クライミング・ボルダリングにはまってくると、必ずマイシューズが欲しくなってきます。まず、様々な足技が使えるようになってきて、足づかいの重要性がわかってくると、同時にシューズの重要性もわかってきます。そうなったらシューズの買い時です。マイシューズなら毎回のレンタル代も不要ですから長い目で見れば安上がりですし、気分もいいでしょう。そうなったら、いよいよマイシューズを選んで、買いましょう。

はじめてクライミングシューズ、ボルダリングシューズを買う人がおぼえておくべきポイントは、ずばり以下の3点です。

ポイント1:値段の安さを優先する。セール品、特価品などがベスト
ポイント2:2~3本のベルクロタイプ、または、レースアップ(紐靴)タイプ
ポイント3:足先はまっすぐの「ストレート」、底は平らの「フラット」タイプ

このうち、今回は「1.まず値段の安さを優先する。セール品、特価品などがベスト」について説明します。

クライミングシューズの値段はどれくらい?

クライミングシューズは、安いもので1万円前後、高いものだと2万円以上します。セール時などの特価品なら、7~8000円程度で買えることもあります。初心者がはじめて買うには、なにより「値段が安いもの」がおすすめです。セールなどの際に、ワゴンなどに入れられて売られている特価品があれば、それがベストです。もちろん、試着して足にあえばです。

もし、あなたがとてもお金持ちで「2,3万円なら捨てても全然気にしないよ」というなら別ですが、普通はそんな人はいませんよね。(この記事は普通の人を対象にしています。)

最初のシューズは「長く使おう」と思ってはいけない

では、どうして値段の安さを重視して選ぶべきなのでしょうか。

その第一の理由は、最初に買うシューズは、あなたが少し上達したときには使えないことが多いからです。そのため、言葉は悪いですが、「安いモノを買って使い捨てる」という感覚で選ぶ方がよいのです。

ここで、「少し高くても、最初から良いモノを買って、長く愛用する方がよいのでは?」と思われる方がいるかもしれません。もちろん、一般的にはモノを長く使うことは良いことですが、初めてのクライミングシューズ選びの場合は、その考えはきっぱり捨ててください。

それは、クライマーのレベルや、クライミングスタイルなどによって、適したクライミングシューズは異なることが背景にあります。だれにでも、どんなクライミングにもベストという万能なクライミングシューズは、存在しません。自分のクライミンスタイル、用途にあったシューズ選びをしなければならないのです。

初心者は、シューズに求めるものがはっきりしていない

ところが、初心者のうちは、自分のクライミングスタイル、すなわちどんな課題をどんな風に登りたいのか、得意な技術、克服したい技術といったことが、はっきりわかってはいないでしょう。このようにクライミングスタイルがはっきりしないのですから、当然、自分にどんなシューズが必要なのかも、まだはっきりしません。

ですから、ぶっちゃけていえば、初心者にとってシューズの性能は、どうでもいいのです。それが、価格重視で選ぶ理由です。とはいえ、比較的適用範囲の広いシューズと狭いシューズとがありますから、適用範囲が広いシューズを選ぶに越したことはありません。それは2番目のポイントになりますので、別記事で解説します。

サイズ選びも、初級者と中上級者は異なる

また、シューズの種類だけではなく、サイズ選びも、初心者と中・上級者とでは異なってきます。

初心者が最初にシューズを買うとき、多くの人はかなり緩いサイズを選んでしまいます。これはサイズ選びの「失敗」というより、初心者と中~上級者では、適したシューズのサイズが違う、という方が正しいでしょう。

中~上級者は、きつきつのタイトなサイズで履く人が多いですし、実際にそのようなサイジングをしないと登れないことも(特に外の岩場の場合)あります。

しかし、初心者がそれを真似して、タイトフィットのシューズを履いても、慣れていないので痛くてはき続けられませんし、また、タイトフィットでなければ登れないようなルートにトライするわけでもないので、その意味がありません。

それよりも、初心者のうちは「長時間登ること」が、上達のためにはなにより大切なことです。ですから初心者にとっては、少し履いているとすぐに痛くなるタイトフィットサイズは、まったく向いておらず、「楽に履けて、痛くないサイズ」を選ぶのが正しいのです。しかし、そのようなサイジングのシューズは、上達して中級以上になると物足りなくなります。ですから、どのみち、最初に買ったシューズを長く愛用することはできないのです。

また同様に、高価格で高性能のシューズを履いても、初心者のうちはその価値を活かすことができません。もちろん、初心者がそういうシューズを履いてはいけない、ということではありません。なんでも好きなものを履けばよいのです。ただ、「宝の持ち腐れ」となりますから、お金がもったいないということです。

クライミングシューズは消耗品。1年持てばいい方

最初のクライミングシューズは値段重視で安いものを買った方がいいことの第二の理由は、クライミングシューズは「消耗品」だからです。

たとえば、昔の、天然皮革の登山靴などは、よく手入れをすればリペアをしながら10年以上も愛用するという使い方もできたでしょう。しかし、クライミングシューズは(リペアは可能ですが)、もともとそんな風に長期間愛用するものではないのです。それどころか、使っていくうちにだんだん「へたって」いくもので、その「旬」の期間(もっとも使いやすい期間)は、想像よりずっと短いものです。使い方や、メーカー、製品によっても違いますが、週に2回登るとして、半年くらいでしょうか。1年もてば、だいぶ長持ちした方です。

これは、クライミングシューズの命であるソールが、使ううちにどんどんすり減っていことによります。ソール以外の本体も伸びてしまったり、へたったりしてきます。

ソールは1回か2回ならリペア(張り替え修理)ができますが、リペアをしても芯がへたっているため、新品のようにはなりません。(リペアについては、また別記事でご説明します。)

シューズの特徴がクライマーの技術に影響を与える

さらに、第三の理由として、上達するためには、いろいろなタイプのシューズを買って履いた方がいいからです。

上でも書いたように、クライミングシューズにも向き、不向きがあります。あるムーブに不向きのシューズを使っていると、そのムーブ自体が上手く出来ないため、いつまでも上達しないということになります。

長らく日本の女子クライマーのトップに君臨している野口啓代さんは、スポルティバの「ソリューション」というシューズを愛用していますが、あるところで「ソリューションを使うようになってからヒールフックが得意になった」と述べていました。

このように、あるシューズを使ったおかげであるムーブが得意になる、ということがよくあります。シューズがクライマーのテクニックに影響を与えるのです。私自身も初心者のころ、それまで履いていたスリッパタイプのシューズから「ミウラーVS」というシューズに替えたとき、それまで苦手だった小さいホールドへの乗り込みが、びっくりするほど上達した経験があります。

上達のためには、いろいろなシューズを買って試すべき

シューズの個性や特徴は、クライマーの技術にも影響を与えるわけですが、ここで覚えておいてほしいのは、そのシューズがどんな特徴を持つのか、自分のスタイルに合っているのかといったことは、ショップで5分や10分試着くらいでは絶対にわからないということです。

実際にそのシューズを購入して、ある程度の期間、壁や岩を登りこんでみなければわからないものなのです。ですから、1つのシューズを長く使うことを考えるより、さまざまなタイプを試してみる方がいいのです。

もちろん、そうやって様々なシューズを試してみて、自分にぴったりの一足が見つかったら、それを買い換えて何度も使うことになるでしょう。それからでも、他のシューズをたまには試してみることをお薦めします。

ボルダリングを含むフリークライミングは、道具の力を使わずに自分の力だけで岩や壁を登るというスポーツです。しかし、唯一、シューズだけは、その力を借りられる道具です。そのため、クライミングにおいてシューズはとても重要です。自分にぴったりの一足が見つかるまでは、様々なシューズを試してみましょう。そのためにも、最初から高価なものを買うことはおすすめできません。

「安いもの」というのはもちろん、「2万円や1万5000円のものよりは、1万円のものがいい」くらいのことです。1万500円のものと1万円のものがあったとき、後者を絶対に選びなさいということではありません。あくまでメドです。
おわかりとは思いますが、念のため付言しておきます。

なお、シューズのタイプによる選び方は、次の記事で説明しています。

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